第8章 エリート文化と大衆文化

伝統的な考え
・真の文化・・・唯一無二のオリジナルな芸術作品を頂点とするエリートによる高級文化
・えせ文化・・・一般大衆が喜ぶキッチュ(模造品・陳腐品)やオリジナルの大量複製品からなる大衆文化
誰もがあるいみ大衆である現代社会において文化の真正性とは何かを考える

1.「芸術」と「「よい趣味」の解体

芸術家・天才・・・・・→作品←・・・・・享受者
精神          創造      精神の向上
創造力         自己表現   趣味
独創

芸術はルネサンスまでは「手技・術」を意味し、大工職人の術と異なった特別なものではなかった。
芸術家と職人の身分の差もない。
17C後半になって詩・劇・絵画・彫刻・建築・音楽・舞踏は「美と調和を目指し我々に快楽を与えるもの」と考え、これらを「美しい術(美術)」という名で呼ぶことになる。これが18Cを通じて定着し「芸術」という名で呼ばれるようになる。

■「趣味」について
「よき趣味」・・・・・貴族の普遍的人間性・・・・・高級文化(美術館のサロンなど)

啓蒙

「悪趣味」・・・・・大衆・・・・低俗・・・・・・低級文化

2、大衆社会のキッチュ現象

現代の社会は、かつての貴族の「よい趣味」を人間の普遍性と主張することができない。
■理由
・古典的ジャンルの解体
・映画、TV、CDなどの美的経験の多様化

しかし、普遍的と見えるこうした趣味の基準も、一定の規範のもとにある社会に生まれ、美的教育を受ける中で自分の好みを養うものが互いに批判したり認め合ったりして、新たなコンセンサスを形成しそれが新しい規範や慣習となる

公的な趣味・規律・・・・・教養文化

批評・コンセンサス・・・・・目利き・批評家

個々人の趣味・・・・好き嫌い

■アメリカの美術家グリーンバーグの説
アヴァンギャルド(前衛芸術運動)・・・・正式・真正の文化

↓(互いに影響を与える)
キッチュ・・・・代用文化

■キッチュについて
キッチュとはオーソドックスな芸術品の代用品を意味し、そこから転用される美的に粗悪なまがい物やがらくたをを意味する。
キッチュという美的態度にとって本質的なものは、たとえ代用品でも、安価な粗悪品でも、自分の気に入ったもので日常生活を飾り立て、それを心地よく快適なものにしようとする点にある。

・美術作品・・・自律性の美学
・美的対象のキッチュ…寄生の美学・際物
キッチュは以前「まがい物」として非難されていた。しかしそれは違う。美学が違うのだ。今日我々は美術作品を通じた美的経験もあれば、キッチュを通じた美的経験もある。

■クラシック音楽とロック
クラシックファンがロックファンを「悪趣味だ」と言うのはフェアではない。ロックは音楽「芸術」ではないが、そもそもクラシックとは異なった音楽なのである。クラシックファンがロックファンを悪趣味だと言うとき、実際に表明しているのは、個人的趣味のレベルで、彼がロックについて無趣味であるという事実にすぎない。
我々の人生の美的生活が「芸術」だけで成り立つわけではなく、キッチュとyばれる美的現象も、それを構成する不可欠な一部である。

■今日の美的状況の特徴
・漫画やアニメの村上龍の作品
・元々永続性を保証しない砂糖菓子のシュガークラウン
(芸術は永遠なり・・を完全否定)
1nishiyama.jpg
▲西山美なコ 《シュガークラウン》 2004
砂糖、卵白、ゼラチン
H14.0×14.0×10.7 cm
写真:末正真礼生

・ヴェネチア・ビエンナーレ第9回国際建築展「おたく:人格=空間=都市」など

3、オリジナルとコピー文化
■ローマ時代
ルーベンス、ラファエロなどの画家は、弟子の練習に自分の絵を模倣させたし、自身で複製もした。
贋作も多い。コピー作品は今の時代だけではない。
では、オリジナル作品と完全なコピーは美的品質は同じか?

■4つの場合
①コピーにレンプラントの署名がしてある場合・・・・贋作・・・オリジナルと同じ美的経験を持つ
②コピーが贋作だと知れた場合・・・・美術館から撤去される(専門家を欺く模倣の技術は評価される)
③コピーに「これは完全なオリジナルのコピーです」とキャプションがつけられて展示される場合・・・オリジナルの代用として同じ美的経験
④コピーにレンプラントの署名に代えて、21世紀のオランダ画家の署名がある場合・・・作者のオリジナル作品として独自の美的経験

人はコピーであることを知らない場合は、オリジナル作品そのものを見る美的経験を持つ。どうあっても本物と向き合わなければ本当の美的経験がもてないという人は、「現代では完全なコピーは作り得ない」という事実に基づく主張か、さもなくは単なるフェティシズムである。
スポンサーサイト



第7章 無形文化財のドキュメンテーション

、ドキュメンテーション(記録化)とドキュメンタリー

どちらも語源はラテン語の「doceo」に由来する。
・ドキュメンタリー・・音楽そのものをはじめから終わりまで正確に記録するというのではなく、その音楽がなぜ知られているか、それを伝承している人々の想い等をナレーションによって構成するものである。従って、音楽そのものの記録化よりも、作り手の観点が重要。

・ドキュメンテーション・・対象とする音楽を徹底的に可能な限り客観的に記録するもの

2、ATPAにおけるドキュメンテーションと「フィールドバック」の概念
■ATPAとは
アジア伝統芸能の交流(Asian Traditional Performing Arts)の略。
1774年、故小泉文夫(東京芸大 音楽学)・山口修(大阪大学 音楽学)・徳丸吉彦(お茶の水大 音楽学)が企画。
①3年を一周期とし、できれば5周期行う
②各周期の一年目は事前調査、2年目は会議、3年目はドキュメンテーションの公刊
③ドキュメンテーションは録音・映像・文書で行う

■第1回ATPA(1976年 東京)
インドのスンダ、タイのバンコク、フィリピンのカリンガ、マレーシアのクニャ、日本の伝統演奏家が佐参加。(インドネシアも参加させたかったが、当時インドネシア政府は海外で印刷されたインドネシア語の文書(論文)を持ち込み禁止にしていたので断念する)
報告書・・・アジアの観点からのアジアの音楽(1977)

■第2回ATPA(1978年)
報告書・・・アジアの音楽的な声(1980)
参加国のビルマに報告書、レコード、フィルムを送ったところ、レコードプレーヤーがないのでカセットテープに変換して欲しいと要請があった。当時ビルマの国立音楽大学にもレコードプレーヤーがなかった

■第3回ATPA
報告書・・・南アジア演劇における舞踏と音楽(1983)
ATPAは第5回まで続いたが、報告書は第3回以降発刊せず。

■徳丸の考え
報告書は全て現地語でフィールドバックさせるべきである。現地での研究成果は現地の言語で現地に帰す。そうすることで、彼らは英語を読めなくても報告書の中の採譜や歌詞を、また録音や映像を直接に利用できる

3、ヴェトナムにおける二つのドキュメンテーション
ヴェトナム政府とユネスコの会議
議題1、中部ヴェトナムのフエで伝承されてきた宮廷音楽の状態を改善すること
議題2、50以上の同国少数民族の文化の保存

■議題2について
「ベトナム少数民族無形文化遺産調査・映像記録化及び人材養成プロジェクト」(RVMV)
①ヴェトナムやハノイだけでなく、他の地方から選ばれた文化政策や映像の若手専門家が、ハノイの国立民族学博物館に一週間滞在して、日本から参加した録音・映像の専門家(大阪芸術大)から録音とビデオ撮影の訓練を受ける。また日本とヴェトナムの研究者から楽器計測の方法や調査する少数民族に関する講義を受ける
②次の一週間はメンバーが3、または4に分かれて、異なる少数民族の村に滞在して、録音・録画・調査を行う。各グループ構成は常に日本人とヴェトナム人
③その後ハノイに戻り、映像の編集や記録文書の作成を行う

<ATPAとRVMVの違い>
アジアの音楽ドキュメンテーションについてATPAは日本の専門家が行ったが、RVMVはヴェトナム人自らドキュメンテーションを行った。

4、ドキュメンテーション概念とフィールドバック概念の拡大
■議題1について
「ヴェトナム宮廷音楽の再活性化プロジェクト」
1945年に国王が退位し、宮廷がなくなると音楽の伝承者も四散してしまった。
そこで国立フエ大学芸術学部に宮廷音楽専攻コースを作り、活性化を図ろうとしたが、予算が困難であったため日本政府が補助。その結果現在フエの遺跡保存センターに所属する楽団で演奏活動に従事するものも出ている。

宮廷音楽がなくなっても、それはヴェトナムの問題で日本は関係ないと言う声もあった。また、宮廷音楽というひとつの様式を保存するにはこれだけでは十分ではない。様式の保存は生きた人間による伝承が続くことでなければならないからである。映像や記録がいくらあっても不十分である。また、当然さまざまな変化が生じることもありうる。

5、日本における広義のドキュメンテーション
日本政府が、特定の芸能を重要無形文化財に指定し、あるいは、その芸能の優れた伝承者を人間国宝に指定するのも、ドキュメンテーションの方策であるといえる。

■文楽の場合
文楽の構成・・・人形遣い・太夫・三味線ひきが将来不足することを予測して、文楽協会と国立劇場は1972年に養成を開始。現在の活動員のうち半数が養成所出身である。

■組踊(沖縄)の場合
せりふ・歌・音楽・舞踏からなる琉球の古典劇
元は男子によって上演されたものであるが、現在は女性の演者が多い。国立劇場では男子の演者の上演を再び活発にすることを考え、男子だけを募集している。一期生は2007年度修了。

第6章 資料の保存・修理・測定の科学

1、日本の文化財

■文化財保護法での分類
・有形文化財・・・建築物、美術工芸品(絵画・彫刻・書跡・典籍・古文書など)
・無形文化財・・・演劇、音楽、工芸技術
・民俗文化財・・・衣食住や生業や信仰に伴う風俗習慣、民俗芸能に用いられる衣装など
・記念物・・・遺跡、名勝、動物、植物、地質鉱物
・伝統的建造物群・・・宿場町、城下町、農漁村
・文化財の保存技術・・・文化財の保存に必要な材料製作・修理・修復の技術
・埋蔵文化財・・・土地に埋蔵されている文化財
・文化的景観・・・人と自然とのかかわりの中で作り出された棚田・里山など
・民族技術・・・地域で伝承されてきた生活・生産のための用具製作技術

2、美術工芸品の材質と劣化の原因

■絵画の劣化
・温湿度などの環境変化
・膠(にかわ)の接着力の低下
・巻緒の締め方などの取り扱い
・表具に用いられた糊(のり)の硬さ
・文化財害虫による「虫蝕」

■木彫り彫刻の劣化
・温湿度などの環境変化
・漆器や漆(うるし)の接着力の低下
・木質の乾燥に伴う収縮による「やせ」「干割」
・くぎやさびの対抗に伴う矧目(しんめ)の開き
・文化財害虫による「虫蝕」

3、文化財の修理

3-1 調査(絵画・古文書)
本紙・表具の採寸のみならず、損傷箇所・欠損箇所についての現状記録。
必要に応じてX線透過写真や赤外線撮影を行う。
絹本については絹繊維の密度も計測する。

3-2 解体
顔料のある場合は剥がれ落ち止めを行った後、表具・増裏紙・本紙に直接貼られた肌裏紙を最小限の量の水または布糊を薄く延ばしたものを用いて除去する。
絹本の場合は裏からの彩色が施されてある場合が多く、その顔料が落ちないように細心の注意を払う

3-3 クリーニング・乾燥
3-4 補紙・補絹・肌裏打
3-5 表具(本来の姿に戻す)

4、考古資料の修理
美術工芸品は一定の美意識の元、人々が代々「残したい」という意識を媒体として「意図的に伝世」されてきたものである。それに対して考古資料(土器・陶磁器・金属製品・玉製品・木製品)は埋蔵条件により「残る」ことが決定されるものである。

4-1 調査
X線透過写真の撮影と実体顕微鏡による観察は不可欠である。樹種の同定などの細部の観察には電子線を用いた走査型電子顕微鏡を用いる

4-2 クリーニング
金属製品はさびに覆われているので、グラインダーなどを用いて物理的に処理する。表面に金メッキが施されている場合は顕微鏡を用いて除去する。
木製品の場合は水の中で刷毛や筆で丁寧に土を落とす

4-3 脱塩処理
金属製品のみに行われる。さびの原因は塩基性イオンであるため、アルカリ性水溶液に一定期間浸し、水酸化物イオンに置き換える。また高温高圧タンク内で脱酸素水に浸して脱塩処理を行う方法もある

4-4 樹脂含浸
さびの原因は空気中の水蒸気でもあるので、金属表面を合成樹脂で被う方法もある。これで新たなさびの進行を阻止する

4-5 接着・補填・着色
4-6 民俗資料の修理
膠(にかわ)を筆で塗布する
4-7 考古資料の保存処理の特徴
考古資料は土中というきわめて特殊な保存環境の中で保存されてきた。しかし発掘調査により空気中に晒されることになり、酸化による劣化や水分蒸発による変化が加速度的におこる。大量に出土されることが多いため、短期間に集中的に保存処理をしなければならない。

5、収蔵施設

5-1 収蔵庫の内部・・・安定した高温高湿を保つ必要がある
5-2 地震対策・・・収納庫の棚に落下防止の扉を設置(阪神淡路大震災後)

6、まとめ
文化財の保存は修理を低規定に実施することにより、その生命が保たれている。こうした技術は伝統的な技術が伝承されはじめて成立する。こうした修理技術者と化学者の連帯が文化財の保存に大きな役割を果たしている

プロフィール

Mikami Kako

Author:Mikami Kako

おことわり

保育士・図書館司書に関しては、旧システムによるものなので、現在のもの科目編成や内容にずれがあります。放大についても閉講科目が含まれます

クリックすると開きます

シンプルアーカイブ

検索フォーム