第13章 海外への日本の文化芸術の紹介

1、海外への日本音楽紹介活動の流れ
明治維新の直前は異国の珍しい音楽に興味を持つ聴衆を相手に見世物的演奏をする公演であった。日本の音楽を「伝統文化」として紹介するようになったのは1970年前後からである。
1964年東京オリンピック、1970年万博を機に、西洋音楽を学んだ作曲家が日本の伝統楽器のための曲を作曲する「現代邦楽」が盛んになる。
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ノヴェンバー・ステップス~尺八,琵琶とオーケストラのための
作曲: 武満徹
サイトウ・キネン・オーケストラ, 横山勝也(尺八), 鶴田錦史(琵琶)
指揮: 小澤征爾

1972年国際交流基金が設立される

■国際交流基金
文化芸術交流グループ・・・文化事業部、芸術交流部
日本語グループ
日本研究・知的交流グループ
情報センター・・・海外事務所(ローマ日本文化会館・ケルン文化会館・パリ日本文化会館・ソウル日本文化センター・北京日本文化センター・マニラ事務所・ニューヨーク事務所)

2、日本音楽国際交流会の活動
「古典から現代音楽までを含む日本の伝統楽器による音楽を世界のより多くの人々に理解してもらうこと」を目的とする。1988年設立。

■交流会設立の趣旨
日本音楽は今や日本のみならず、世界の大きな文化的財産となっている(スローガン)
■交流会の活動内容と理念
1、日本音楽の海外への普及
<具体的内容>韓国で日本の伝統音楽が上演されたこと(1989年)
韓国では当時日本の音楽が上演禁止であったが、文化交流のために韓国の国立国楽院ホールで日本音楽が上演された。交流会のメンバーと韓国の研究者の人的交流があったことをベースに、音楽は国策を超えることを記念した出来事である。
2、日本音楽の在日外国人への理念
3、海外の日本音楽研究者への援助
4、日本国内および外国への日本音楽に関する情報提供
5、日本音楽に関する研究会の開催
6、その他、趣旨に沿った事業
■日本音楽紹介の理念
①演奏に、解説や公演を組み合わせ、配布プログラムも現地語で紹介する
②古典曲から現代曲までを演奏のレパートリーに含める
伝統は過去の物ではなく、現在にも生きており、また時代とともに変容する
③現地の音楽文化との交流を試みる
<ソウル公演での新しい試み>
・日本の古典の合奏に韓国の伝統楽器「伽那箏」に参加してもらった
・伽那箏の楽曲を日本の箏で演奏した
④現地の音楽家や研究者と交流を図る
⑤質のよい演奏を心がける
・出発前に十分な練習を積むこと、現地に入ってもリハーサルや練習の時間を確保すること、リハーサルを必ず行うこと

3、複合的な紹介:琵琶楽の海外公演
平家物語は今では文学作品として親しまれているが、元は琵琶を伴奏にした音楽作品である。これを本来の音楽である「平家」と昭和初期に作曲された越前琵琶楽を一緒に演奏する。
同時に展示公開の2日目に「無常と文学」という題名で松岡正剛氏は平家物語の美しさを「不足の美」「無常の美」と言う日本人の美学によって説明した。内海晴美氏は和紙人形で目と色のない人形を「不足の美」として日本人の伝統的な美意識を示した。

4、アメリカの大学における雅楽カリキュラムの開設
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コロンビア大学

2006年秋、雅楽カリキュラム開設
■雅楽カリキュラムの実際
2006年3月:プレイベントでレクチャーコンサートや楽器のデモンストレーションが行われる
2006年11月:小野雅楽会がコンサートを開く
2007年:雅楽プログラムで学んだ中から優秀な生徒を日本で専門家のレッスンを受ける
■なぜ日本音楽か
コロンビア大学では、日本研究は伝統と実績を積んでいるが、音楽だけは抜け落ちていた。
■なぜ雅楽か
①雅楽は現存する世界最古のオーケストラであるから
②雅楽器を用いた優れた現代曲が生まれているので、現代音楽としても様々な期待が寄せられる
■なぜ演奏実技か
音楽は聴くだけでは根付かない。実技を通して体験することが大切である。例えば、オーボエを吹く生徒が篳篥を演奏すると文化の違いを身をもって体験できる
■実践上の問題
①お金の問題・・今回はまかなえたが次回はどうか・・?ニューヨークには日本の企業がたくさんあり、音楽に助成をしているが、みな西洋音楽やバレエである。日本の文化財を海外に紹介することはビジネスの面でも有効ではないか?
②言葉の問題・・英語の日本音楽の入門書は極めて少ない。また書かれていても非常に難しい。英語で書かれた簡単な説明書が必要である。
③雅楽の楽器の奏法の問題・・初心者には難しい。音の出にくさや不均等な音質は日本音楽の魅力でもあるが、簡単に音が出せる楽器があれば普及に一役買ってくれる。安いに越したことはない。

5、まとめ
日本の伝統音楽は世界共有財産である。インターネットの普及に伴って、海外からの関心と日本からの発信を結びつけることは、国の文化政策としてはもちろんのこと、個人レベルでも容易である。





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第12章 コンサートの企画から上演まで

1、芸術文化政策実践としてのコンサート
たった一回のコンサートでも第1章で述べたように、芸術の助成・保護あるいは妨害・検閲と関わる。

■高い集客率の達成だけを目的とした場合の問題点
1、コンサートが人気のある様式に集中するため、他の音楽様式が忘れられていく
2、音楽様式の中でも、人気のある作品だけが繰り返し提示されるので、他の作品の認知度が低くなる→これを「正典化」という。

■正典化について
正典化された作品は繰り返し演奏されるため、楽譜や楽器の入手が容易になる。正典化されなかった作品との差異が大きくなるにつれ、様式の中の多様性が失われる。
ある音楽様式が生き生きと存在するためには、多様な作品が伝承され、その様式に基づく新しい作品の創作も行われなければならない。そうでないと様式そのものが弱まり、人気を失う。

現在の日本では、日本の伝統的な音楽も西洋音楽と同じように重要であると考えられている。しかし伝承・伝播のしかけとしての義務教育と専門教育においては大きな違いがある。コンサートホールにしても、東京・大阪・沖縄の国立劇場、各地の能楽堂以外は西洋音楽を伝播するしかけとして機能している。

2、三曲のコンサート
■三曲とは、箏・三味線・胡弓・尺八による室内楽で江戸時代からの総称。江戸時代は尺八が宗教楽器であったため胡弓が使われたが、明治維新で尺八が解禁になり、現在では胡弓のかわりに尺八が使用される。

■コンサートを開催するにあたっての関連深い項目
1、構想を実現する
2、構想を全体に関わらせる
3、構想を与えられた要素で組み合わせる
4、構想が観客を導き、動かす

<具体例>「秋を迎える邦楽の響き」(2006.8月 宮城県立芸術劇場)
■曲目
秋の訪れを印象付けるために、二世吉沢検校の曲を選ぶ。この曲には付け加えられた部分があるのでそれを考察する。演奏者にもそういう知識があるものが必要である
■演奏者
メンバー全員が文化賞芸術祭賞を受けている。弦3人・尺八2人
■会場
残響時間が2,0秒であるために、邦楽には長め。そこで屏風の立て方を工夫して歌詞が明瞭に聞こえるようにした
■日時
夏の日曜日であったので14時開演にした。平日であれば仕事帰りの人の望ましい時間に設定するが、地域によっては最終電車から逆算する場合もある。
■想定される聴衆
宮城県内外の邦楽ファンで、年齢層が高いためプログラムの字の大きさを考慮した。また、一曲づつ曲の解説をすることにした。
■曲の演奏順序
・楽器の調整(調弦など)
・楽器の配置や舞台の転換の時間
・休憩時間は演奏家の都合だけではなく、ホールのトイレの数も考慮する

3、コンサートの細部に関する事前の決定
■単一ジャンルか複数ジャンルか
観客が初めから終わりまで聴くことを前提にすべき
■途中入場の自由と制限
邦楽の場合は出入り自由である場合が多い。しかしホールによっては制限している場合もある。
■緞帳の有無
邦楽には舞台の上で楽器と身体を望ましい関係におくのに時間が掛かるので、緞帳があることが望ましい。視覚や歩行に障害のある演奏者が舞台につくまでに時間が掛かる。
■緞帳の下ろし方
邦楽では曲が完全に終わる前に緞帳を下げる場合が多い。したがって最後の音が鳴るときには緞帳が下りてしまっていることになる。最後の音まで緞帳をあげておいたほうがいいという考えもある。よく相談すべき。
■屏風
邦楽の場合緞帳は視覚的にも音響的にも重要である。屏風を効果的に使うのであれば、楽器との距離を望ましいものにしておく必要がある。
■毛氈
厚いほうがいいが、厚い毛氈は音を吸収する
■西洋音楽向けのホールでの邦楽の演奏
西洋音楽向けに設計されたホールは長すぎる残響音を持つ。こうしたホールで演奏すると詞章が聞き取りにくく、楽器音が繋がって聞える。
1、舞台上で残響音が短くなる箇所を探す
2、スタッカート風に演奏する
などの配慮が必要である
■舞台上の台
可動式の台を備えているホールが多いが、高すぎると観客から見えにくくなる
■楽譜の有無
三曲の場合は箏と三弦は楽譜を置かないが尺八は置く。長唄や義太夫の場合は声のパートは詞章を見るが三味線は見ない。しかし現代曲や新しい曲の場合は全員が楽譜をおくことがある。コンサート企画者はそれらの慣習を考慮しながら全体の仕上がりがいいように、楽譜の有無を決定すべきである。
■演奏者の衣装
演奏者の衣装と女性の場合髪形も考慮すべきである。女性の場合男性より時間がかかるので会場練習の時間を見計らう

4、演奏に関しての事前の決定
■伝承の選択
邦楽の場合は基本が口頭伝承なので、流派によって同じ曲でも調弦から違う場合がある。企画者はどの楽曲の選択だけでなく、どの伝承を選択するかも考えなければならない
■楽器編成
六段の調の場合、基本は箏・三弦・胡弓・尺八の4楽器が必要だが、それが用意できない場合は楽器編成をしなければならない。ないパートは作る。これが邦楽の慣習である。そうやって邦楽は古典を生き生きとしてきたものである。
■声の役割
複数の歌い手が歌い分けをする場合があるが、企画者は演奏家から提案された歌い分けを検討し、企画の趣旨に一致させなければならない。
■基準音
西洋楽器ではA音を440か442に設定することが多い。しかし邦楽はさまざまな高さで演奏されるのでどの基準音を選択するかが問題となる。基準音が頻繁に演奏される音に集中する傾向があるが、企画者は曲の性格・演奏者の声域・全体の構成を考えて決定することが望ましい。
■複数楽器の「打ち合わせ」
地歌・筝曲では複数の独立した楽器を同時に演奏する慣習がある。これを「打ち合わせ」と呼ぶ。

5、今後の課題
ホール関係者の理解と実行力が大事。
西洋音楽のコンサートでは楽屋でもピアノを使うのが当然なのに、知らずに事前の申請を要求したホールがある。これではよいコンサートは出来ない。
演奏者が使いたいと思うホールは、ホール関係者が芸術文化政策の実践者としての意義をよく理解して、本番で最高の成果が出るように見えない部分について普段から準備しているホールである。

コンサートの準備と実行、そしてそれに応じるホールの役割分析は芸術文化政策の課題である。

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Mikami Kako

Author:Mikami Kako

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保育士・図書館司書に関しては、旧システムによるものなので、現在のもの科目編成や内容にずれがあります。放大についても閉講科目が含まれます

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