第15章 新しい芸術文化政策の創出

1、コンテンツの開発
今後、新しい芸術文化政策を創出して行く上で重要になってくるであろうと思われる点の一つに新しい「コンテンツ」の開発がある。
われわれの身の回りにある資料や文化遺産を見直して、その文化的価値を明らかにしていくことが、新しいコンテンツに繋がる。

1、江戸時代の長崎に伝わるオランダ歌曲・・日本でどのようなオランダ歌曲が歌われていたかだけでなく、オランダ歌曲史の研究の上からも重要な資料である
2、1791年にロシアの皇帝エカテリーナ二世に謁見して日本に戻った大黒屋光太夫・・・彼の文献は当時のロシアが知りえない情報もあった。その中にピアノにフリー・リード(ハーモニカやアコーディオンに使われる発音体)が組み込まれた楽器の説明もあったが、ロシア自身も知らない情報である。
3、その後の文献には19C初頭のロシアのバラライカを描いた資料がある。これもロシアには資料がほとんどない。

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現在ロシアで使用されているバラライカ

4、佐賀市は1844年に長崎に来航したオランダのコープス使節団一行の絵巻を所蔵している。これはオランダ海軍軍楽隊の実態を知る上で第一級の資料であり、19Cの西洋音楽隊の実態を知る貴重な資料である。
5、長崎は1854年のペリー二度目の来航の図を所蔵している。これは当時のアメリカ海軍軍楽隊の実体を知る貴重な資料である
6、福岡県は1853年のプチャーチン使節団の軍楽隊の楽器や、乗組員の私物の楽器を絵に描いたものを所蔵している。これは19C半ばのロシア楽器の実態を知る上で貴重な資料である。

このように、われわれの回りにある貴重な資料をひとうひとつ発掘し、資料批判を通じてその価値を明らかにし、その成果を外国語によって海外に紹介してゆくことが新たな「コンテンツ」の発掘に繋がっていく

2、多元主義の豊かさ

■ポスト・モダンの意識
現在「果たしてこれは芸術といえるのか」と言うようなものまで、極めて多彩な作品がお互い異なった美学を主張している。このような「文化のスーパーマーケット」状況を、良し悪しは別にして事実として認めるべきではないか。
理念としての「美とはなにか。芸術とはなにか」ではなく、我々の時代にあってなお、美的経験や判断がどのようにして可能なのか見定めるべきである。
我々が出来ることは「アートをめぐるディスクール(社会的な言説)」に自ら参加することでしかない。

ラスコーの壁画や仮面や武具などは、かつては民俗学博物館に収蔵されるものが、今日美術館に展示されるようになったのも、アートの概念が広がったためである。
<例>
正倉院の唾壷・・・単なる「たんつぼ」
仏像・・・宗教の祈念の対象
これらもアートになっている。

■アーティストがすべきこと
アーティストはつねに自分がアートの歴史のどこに位置を占めるのかについて意識的にあらざるを得ない。これにより、みずからがなぜアートであるかを呈示するものである。

かつて「よい趣味」は都会のブルジョアやエリート階級が所有する「芸術」を中心とする最高文化の規範であり、人間性の規範でもあった。それに対し「平民の低俗な美意識」は道徳的・階層的非難と拒絶の言葉として形成された。

しかし、このような区別が誰もが大衆である社会において解体するのは当然だ。その上古典的な芸術ジャンルそのものが解体し、CDなどの複製技術を通じて消費される。我々の美的経験が極めて多様化した今日、この美的経験や趣味を近代「芸術」と普遍的な人間精神の基準ないし規範に従って判定することなど元々無理だ。

そもそも特定の社会の趣味基準は、個々人が自分の趣味を主張し議論する社会的言説を通じて、コンセンサスという形で徐々に形成され、一定の慣習や規範となり、伝統としての安定性を獲得したものである。

■趣味と教養
いわゆる目利きや批評家の仕事は、比較的安定した相対主義の中で、個人の趣味と社会の趣味基準という二つのレヴェルの間を媒介することである。こうして彼らはすでに伝統となっている特定の選好の体系を擁護したり、逆に斬新な個人趣味に基づいて新たな選好の体系の選好を唱導したりする。趣味と教養とは常にこの二つのレヴェルの間の相互作用とダイナミズムである

■新しい芸術文化政策
現在の社会は社会的ディスクールを通じて社会に受け入れられる限りなんでもありの状況である。これにより、美的モダンのエリート主義を支えた「高級・低級」「真正・キッチュ」の二項対立はもはや意味を失う。新たな芸術文化政策は、個々の人生における美的経験のそうした「豊かさ」をささえ、促進するものでなければならない。

3、文化を担う制度と音楽における具体例

1、文化を担う制度
■ユネスコ
「世界の文化遺産及び市銭さん保護に関する条約」(1972年)には無形文化財が含まれていなかったため、「人間の口承及び無形遺産のための傑作の宣言」を具体化し、日本は能楽・歌舞伎・文楽が指定された。

その後「無形文化遺産保護条約」が採択される(2003年)
<無形文化遺産の概念>
1、口承及び表現
2、芸能
3、社会的慣習・儀式及び祭礼行事
4、自然及び万物に関する知識及び慣習
5、伝統工芸技術
リストには、人類の無形文化財代表リストと緊急に保護する必要のある無形文化財リストの2つがあり、もし設定されれば各国はその伝承に責任を持つことになり、文化遺産の自国内での教育にも努力することが要請される。

2、日本国内における助成・保護のしかけ

■文部科学省・文化庁
独立行政法人 日本芸術文化振興会
・国立劇場(本館・演芸資料館)
・国立能楽堂
・国立文楽劇場
・国立劇場おきなわ
・新国立劇場
・芸術文化振興基金

■エクソンモービル・ジャパングループ
1966年 モービル児童文化賞を設立(2001年 エクソンモービル児童文化賞に改名)
1971年 モービル音楽賞創設(2001年 エクソンモービル音楽賞に改名)
邦楽部門を設置しているところが大きなポイント。
<2006年度までの音楽賞>
邦楽部門(36)洋楽部門(36)洋楽部門(18)

■サントリー音楽財団
サントリー音楽賞(2006年で38回)
佐治敬三賞(6回)
サマーフェスティバル(現代音楽中心)
芥川作曲賞(16回)
その他、推薦コンサートや助成活動

■(財)ローム・ミュージックファンデーション
演奏会への助成
音楽セミナーの開催
国際交流の実施・助成(京都国際音楽学生フェスティバルを含む)
調査研究への助成
音楽在外研究援助
音楽専攻学生への奨学生の給付

■新日鉄文化財団
西洋音楽と邦楽を常に視野に入れる方針
紀尾井ホール(西洋音楽中心)
紀尾井小ホール(邦楽を念頭に設計)
2つのホールによる自主企画の開催
良質の会場の提供
助成事業

以上のほかにも優れた活動をしている財団がある。しかし、現在のところ西洋音楽の演奏会と学生に対する助成のほうが、邦楽の演奏会と学生に対する助成よりも多いのが現状である。
これらの芸術文化政策にとって必要なのは、誰が何の権利で誰を助成し、あるいは妨害を行っているのかを常に検討することである。その点では芸術教育の制度も同じように検討されなければならない。



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