第15章 生涯学習の課題と展望

1、現代社会の直面する諸問題

■デモグラフィック(人口統計学的)な動向
高齢化・少子化・団塊世代の定年

■政治的背景
行政の行っていた多くの事業が、市場化・民営化・自己責任化され、厚生と平等から競争と自由へと基本理念も大きく変化している(新自由主義)

■社会関係のあり方
物質中心の社会関係を重視する社会から情報中心の社会関係を重視する瀬赤いへと大きな転換を遂げつつある。社会の中心が、物質の大呂生産を主とする産業から、情報・知識・サービスに重点をおいた産業へと転換しつつある。今日の情報化は工業そのものを空洞化しつつ進行している

■文化と価値観の動向
かつて大衆文化は大量消費文化であった。単一商品の爆発的流行やひとつのドラマに対する異常なまでの高視聴率はそうしたぶなを象徴している。しかし、現在は情報化の著しい進展も、情報の個別化を促進する大きな力となっている。ひとつの行動様式や流行には、必ず複数の対抗文化が表れ、絶えず多様な選択肢が用意される。現代社会は、大量生産・大量消費から個別生産・個別消費文化へと転換を果たしている

2、学習社会実現に向けての課題と問題点

①財政的な面を含む行政のあり方の問題
②学校教育のかかわりと通続性の問題(ニート・フリーター)
③生涯学習や生涯学習機関のネットワーク
④NPOや地域の活動に関わる問題
⑤グローバル化の中の生涯学習
⑥生涯学習の内容・カリキュラム
⑦人材の育成

現在、多くの自治体では首長部局と教育委員会との二重構造に陥ってる行政機構を一次元ないしは整除し、効率的な生涯学習行政を展開することが必要になるであろう。行政は、民間に任せるものは任す・NPOの支援にソフト面で関わる・学校を生涯学習の場とすることが望ましい。

3、学習社会の近未来像
①学習社会にあっては、成人教育・継続教育・余暇学習・あるいは職業教育といった様々な生涯学習機会の制度的な障壁が極めて薄く、低くなっていくと考えられる

②学習社会においては、行政の力点も「教育」や「指導」あるいは「生涯学習の推進」から自主的な学習活動の「支援」や「調整」へと移っていくだろう

③生涯学習を主軸に据えた学習社会の中核的機会は、社会教育の時代のように公民館だけというだけでなく、大学や短大もしくはその連合体(コンソーシアム)なども加えた多様な体制を取る事になる

④学習社会では、学ぶ人・教える人・情報を提供する人・学習の結果を実際の社会活動に生かす人のそれぞれが、ときと場合に応じて相互に立場を変えるといったように、人々の流動性も高まっていくことが想定される

このように、学習社会の近未来像を現在の生涯学習のあり方と対比しつつ全体的にいえることは、機関・組織・人・情報などのあらゆる側面で個別化・個性化が進み・学習者の主体性が高まると言うことである。
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第14章 生涯学習の評価と調査

1、社会システムとしての生涯学習

システム
基本的な語義としては「相互に関係を持った複数の要素の集合と、その相互関係の全体を指す概念」

そうしたシステム観に立つならば、一定のインプットを投入しても、場合によっては合うとかむの状況が全く違ったり、多様なインプットに対して常に同じようなアウトカムだったりした場合、そうした仕組みは存在しない。

そうしたシステム内部の関係が有効に機能しているか否かに関しては、基本的にインプットとアウトカムを比較することによって評価し得る。経済学で言うところの費用=効果分析である。

一方教育や福祉は必ずしも金銭的・経済的な指標で効果が表されるわけではない。そこで生涯学習に関わるような利潤の獲得を目的としない活動は、その効果を非経済的に測定し、費用と比較することが可能な指標として把握しなければならない。

2、評価の意味と必然性
日本では、これまで生涯学習に関わらず、教育に関する事業や実践について費用=効果分析のような作業を行ってこなかった。綿密に計画を立てて種痘に準備をし、実践に移したのだから、うまくいかないはずがないという楽観主義・制度本位主義や、主観的な効果・感覚的な効果は、客観的な指標とはなりえないという思い込みもあったように思う。

しかし実際には何事も、当初の予定とは大きく異なる効果・結果が生じることはむしろ普通である。やりはじめたらいちいち効果を測定しないと言うやり方は妥当ではない。

■評価
広義の評価・・・利用者数・参加者数などの統計数値の検討、学習者・利用者の態度・意識調査などアウトカムの把握すべてを指す概念
狭義の評価・・・ある生涯学習機会の直接的な効果に対する達成度や満足感などの判断に限定した評価概念

生涯学習の場合は、もっぱら自己評価が一般的である。

3、自己評価とその方法
■既成のアンケート用紙に答えるもの
■自らが設定した学習目標がどの程度達成されたかを自らが評価するもの
①学習の必要性と自分自身についての認識(自己認識)
②学習目標の設定と学習計画の立案
③学習後の達成評価

方法は、それぞれの段階ごとに、自記式(回答者が自分で記入する)、または他記式。第二段階の「学習目標の設定」は、指導者や学習アドバイザーとのディスカッションによって進めることが望ましい。また、最近では学習者同士がそれぞれの達成を評価しあう「相互評価」もとられている

4、生涯学習調査の意味
これまでは、生涯学習に関する施策は、長年の経験と人間関係、パーソナリティといったものに頼って行われてきた。ベテランの公民館の官庁が退職した後に、生涯学習の企画がどうもうまくいかないことも多々ある。

そのような場合、「住民がどのような生活をし、何を考え、どんな学習を望んでいるか」などを、担当者の能力や人柄に関わらず客観的にデータシステム化することが非常に大きな力になる。

5、調査の諸類型
■量的調査・・・多数のサンプルに対し、定型的な調査票を用いて○×、選択などで簡単な質問をし、数量的データを得る。比較的安価に大量の標本が作られる・体系的な把握が困難・事象の意味が理解しにくい
■質的調査・・・少数の対象者に非定型的で非指示名質問(自由面接)を行い、それを文字型データ化する。回答者の主観を通じての因果律の把握が容易。全体的で体系的な把握が容易、新たな問題や課題の検索が容易・結果の一般かも追試も困難・調査の質が調査者の質に左右される・調査結果が調査意図に大きく依存する

6調査票調査の方法

①単一選択・・・ひとつだけ○をつける
②複数選択・・・いくつも○をつける
③評定尺度(スケール)・・・(例)あなたの気持ちに一番近いものをお答えください
かなりそうおもう そうおもう あまりおもわない そうは思わない など
④自由回答

調査の実施は郵送・留置(とめおき)・面接・電話で行われる。

■郵送・・・広範囲にサンプル配布が可能。回答者の匿名性が保障される。調査員の個人的資質による偏りが生じない。回答への動機付けが弱く、内容が子見ると簡単に拒否される。回答率は低い
■留置・・・回答の動機付けができるため回答率が高い。コストも面接調査より安価。近年増えている
■面接・・・質問の意味が五階なく伝達できる。コストが高い。調査員の態度遺憾により、回答に偏りがある。調査員を多量に採用すると、調査員が自分で回答をする(メイキング)危険もある。回収率は最も高い。
■電話・・・コストが低い。回答者が電話帳に番号を載せている人に限られる。拒否が多い

7、結果の集計と分析
集計とは、実査によって得られた素データに意味を与え、統計的に処理しやすいように整理・加工するプロセスのことである。こうした調査の結果得られた情報や知見は、生涯学習に関わる実践・学習支援行政にフィードバックされ、生涯学習活動をよりよいものにするために用いられなければならない。

第15章 発達と個性を重んじた才能教育

2000年 教育改革国民審議会は「ひとりひとりの才能を伸ばし、創造性に富む人間を育成する」として、一律主義を改め、個性を伸ばす教育システムを導入するとされている

1、個性とはなにか

事典より
他の誰とも違う、その人特有の性質


遺伝学より
ヒトは他の生物にはないヒトに共通の特徴を備え、人ひとりあるいは固有の特徴すなわち個性を有している。そして、その個性は親に似る傾向がある

このように、個性を重視して才能教育の充実を図ろうと言う立場に立つならば、一人ひとりが違った特徴を有すると言う遺伝的制約を無視することは出来ない

2身体活動能力を規定する因子
①体力
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②技術
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③精神力
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④身体の大きさ
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3、身長にみられる遺伝的要因の影響
10cm近い差のある一卵性双生児を調べたところ、一方が成長期に消化器系の病気にかかっていたことがわかった。この例のように、遺伝的要因が強く影響する身長でも、その成長期に病気と言う環境的要因で影響を受けることもある。

また、加齢による身長の伸びの個人差についてであるが、身長の伸びるパターンには大きな個人差は見られないが、身長の伸びに関与する遺伝子プログラミング発現のタイミングにはかなりの個人差がある、。

4、音楽に関して観察された「臨界期」
親指と小指に刺激を与えると、一般人は大脳の反応において親指方がより強い。しかし、5~10歳の頃に弦楽器を始めた人は、小指も親指と同じ反応が出る。これは、大脳皮質の体感性覚野と言う場所で、小指の感覚情報を処理する神経細胞のある領域が、楽器を弾かなかった人と比べて広がっていることを示す。しかし、12歳以降に弦楽器を始めた人は、何もしなかった人とあまりかわらない。

3~6歳ごろまでにピアノを始めた人は大きな反応が出るが、その後にはじめるとピアノを弾かなかった人とあまり変わらない。このように、生後、経験と環境によって、動物の生存にとって必要なシナプス結合が強化され、また固定する。反対に、不必要なシナプスは除去される。

5、優れた「できばえ」を示すことが出来る人が誕生する確率
身体活動能力を規定する因子として、「体力」「技術」「精神力」「からだの大きさ」の1つも持っていない人は、全体の77%、ひとつを持っている人は20%。4つ全部持っている人は何万人に一人という計算になる。

■イチローの例
イチローはヒットを打つのに必要とされる因子のいずれにおいてもきわめて高い水準に達しており、年間200本安打を何年も収められると言うのは、シーズンを通して病気らしい病気にかからないという防衛的体力や怪我をしないといった注意深さも身についていると考えられる。そうなると何百万人に一人と言う計算になり、きわめてまれであると言うことである。

6、才能教育の考え方の提案
■遺伝(個人差)と環境(訓練)とを考慮したスポーツ指導のあり方
①ある集団で特定の能力を測って比べてみると、人数は正規分布する(能力水準の高い人と低い人がいて、中間の人が多数いる)
②成長や訓練によって能力は向上するが、ある時点で図ってみるとやはり正規分布する
③能力の水準が高くなるほど、また能力を構成する因子の数が多いほど、その分布の幅が広がる。すなわち個人差が大きくなる

■スポーツ指導のあり方から教育一般を考える
誰でもが高いレベルの能力を発揮できる特異的な分野があるという立場に立って教育を考えるのが「才能教育」である。そこでは教育にあたる人が非教育者に才能があるかどうか見分けるのが現在考えられる最良の方法である。

人間は「遺伝的設計物」
↓←設計の修正
「あるべき姿」「ありたい姿」へと導く


第14章 成長と加齢に伴うパフォーマンスの変化

1、成長期にみられる身体活動能力の向上

■身長の伸びからみた子供の成長
哺乳動物の中で大脳新皮質の発達している人間は、子供期が極めて長い。他の生物が1~2年で成熟してしまうのに対して、10年間と言う長い子供期(4歳~14歳を「子供期という。ちなみにそれ以前は幼児期、それ以後は思春期・大人期)と共に、人間は身体活動能力の基礎となる様々な身のこなしを学習している。

■練習による跳躍と等級能力の向上
「走り幅跳び」・・・5歳で指導しても伸びないが、6歳を過ぎると伸びる
「ボール投げ」・・・7・8・9・才でとてもよく伸びる
基本的動作はこのよううに、小学校中期で伸びる

■トレーニングによる体力の増強
①トレーニングが体力の向上に及ぼす影響・・・男性ホルモンの影響で20歳頃の男子の伸びが著しい。
②筋持久力に関して・・・12歳から14歳が男女を問わず伸びがよい
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■スポーツ選手育成の実際(エリートスポーツ選手の例)
①日本

親とのキャッチボール

少年野球

甲子園を目指す高校野球

プロ野球・大学野球部・社会人野球

このように、才能があるとみなされた子供が選別されている

②中国
上海市のスポーツ界は、上海市が総括しており、そこには「上海体育運動学院」がある。すべて宿舎が用意され、小学校から大学にいたるまでの教育が、トレーニングの合間に行われる。また給料が支払われ、生徒は「プロの選手」と呼ばれている。ここに入るには、青少年体育学校(上海市の19の区すべてにある)の指導者が、地域の小学校を回り、才能のありそうな子を勧誘する。そして、青少年体育学校でさらに伸びそうだと判断された子は「上海体育運動学院」に推薦される。

③日本と中国の違い
たくさんの子供を運動に参加させ、競い合わせて成績を残せる子供が選ばれていく点は同じ。しかし、日本は親が主体になって子供を参加させるが、中国は体育行政が主体になって選手を選ぶ。また日本はほとんどの選手が費用を個人で負担するが、中国は地方レベルの生徒でも行政サイドが費用の負担をする。日本の場合は、優れた成績を上げてはじめて広告などで収入を得る。

2、加齢にともなう身体活動能力の低下

■身体活動能力の低下割合
①筋繊維数の減少
20代(65万本)→30代(60万本)→50代(58万本)→60代で急速に減少し、80代では20代のおよそ半分
②「ねばり強さ」(最大酸素摂取量)の低下
粘り強さの減少傾向は、運動習慣のあるなしに関わらずみられるものであるが、マスターズ競技大会に参加するような本格的なランナーや普段からジョギングをしているような人は、運動習慣のない一般の人たちよりも明らかに高い水準にある

■トレーニングによる身体活動能力の回復
加齢に伴う体力の低下に関しては、運動をしている人は高い水準を保ちながら低下する

①ねばり強さ回復の可能性
・身体運動の頻度:1週間に3~5日
・身体運動の強度:最大酸素摂取量の50~80%、または最高心拍数の60~90%
・身体運動の時間:20~60分。(運動の強度によって変わる)
・身体運動の種類:リズミカルに反復できる大筋群が活動する運動
(ウオーキング、ランニング、サイクリング、スイミング)


②力強さ回復の可能性
脂肪を除いた体重の増加・保持するのに十分な強度のレジスタンス・エクササイズを、最低一週間に二日実施する。一日に主要な筋群を対象として、10~12種類の運動を8~12回反復する



誰でも運動能力は落ちるが、あるきっかけで運動を始めると、高いレベルで落ちていく。不幸にして怪我や病気で動けなくなると急激に落ちていく。高齢になっても目標を持って挑戦することが大切である

第13章 情報通信技術と生涯学習

1、学習機会とボーダレス化

ラングランの提唱
人の生涯の様々な機会における学習活動を学習者の主体性に基づき生涯にわたって継続的かつ統合的に行う


しかし、わが国では必ずしもそのように理解されておらず、生涯学習といえば、学校教育とは異質の学習内容を持ち、中高年層が余暇を利用して行われるものと捕らえられがちで会った。それは、若年層に対する学校教育、職場の企業内教育、社会行政サービスとしての社会教育と言うように、教育機会が別々に存在していたからである。それらは重なりと共通性を持たず、内容的にも互換性がない。

■1980年代半ばからのITの飛躍的な発展
①郵便や書籍による通信教育に付随してきた文字メディアへの偏った依存から脱却し、より精密な情報の提供や学習の動機付けに有効な視覚的プレゼンテーションの利用が容易になったこと
②放送を主とする教育機会に宿命的に伴っていた一方向性への教授ー学習形態から、双方向性への学習方向へと転換しつつあること
③学習者の「学びたいときに、学びたい場所で、学びたいものを学習できる」というオンデマンド性が高まった
④設備などの投資を必要としなくなったため、安価で効果的な学習が出来る

2、成人学習者の特性とメディアの利用
■特性
①自己管理的に学習を進める傾向
②情報伝達型の学習より経験を基にした学習を好む傾向
③社会的・職業的役割と学習内容の合致を求める傾向
④問題の有効な解決を目指し応用の利く、それゆえに連修性のある学習を求める傾向

成人学習者は、自己管理的な学習に適した通信や放送といった遠隔教育手段にくわえて、教師や学友との人間的な結合を求める傾向が顕著である。

■遠隔成人教育に関する実践(ペンシルバニア州立大学の例)
①従来は、周辺的・補助的でしかなかった成人学生に対する遠隔教育が、大学の主要部分に関わるようになった
②同時通信や双方向通信の利用が可能になり、学習環境に変化がおきた
③多様化する学習者のニーズに柔軟な対応がなされる

こうした変化は、経験指向性の高い成人学習者にとって、経験そのものを「遠い経験」から「近い経験」へと変え、生涯学習の効果を高めることに繋がっている。

3、情報通信技術の発展
日本は、ごく最近になってようやく世界水準に達してきたものの、2005年ではまだ世界の21位である。

4、ネット先進国アメリカにおけるIT利用学習の動向

eラーニング
インターネットのウエブ上に掲載された教材に学習者個人が直接アクセスし、その教材の指示に従って学習を進めていくというものである。学習を進めるにあたっては、随時クイズやドリルが用意され、学習者はそれをメールで解答する。寄せられた解答は、講師あるいは自動的に採点され、返信される


eラーニングは、単に学習の時間的・空間的負担を減ずるだけでなく、テキストでは得られない新しい豊富な情報に接することが出来る。

■eラーニングを利用した成人対象の大学教育
①スタンフォード大学
伝統的な大学が定評ある既存の授業内容をウェブに載せ、遠隔学習者に提供している。ひとつの学位コースのすべての授業をウェブに載せている。また、セミナー形式の授業をインターネット会議で行ったり、フォーラムを開設したりといった学習支援システムも整備されている。しかし、母体となる大学がすでに持っている教育水準と分野で、おのずとeラーニングの水準も決まってしまうため、多様なニーズを持つ学習者への教育機会としては限界がある。

②ジョーンズ国際大学
インターネット上にだけ存在するネット大学。全米各地で運営されているが、教員を含む教育資源の水準や専門分野が限られるため、個別の新規参入オンライン大学が生徒を集めるのは容易ではない。

③カリフォルニア・バーチャル・キャンパス
ネット大学は空間的な立地に全く拘束されないという特性を持っている。その特性を利用して、複数の既存の大学がコンソーシアム(連合体)を結成し、共同でひとつのe-ラーニング大学を運営するという形態。

5、ITによる学習者のための支援システム整備
eラーニングのシステムの発展は、ウェブ上の教育用プラットフォームの開発と普及を抜きにしては考えられない。アメリカではWebCT、BlackBoardの二社が有名である。そのうちWebCTは、コロンビア大学講師のゴールドバーグが開発し、企業化したものである。

■内容
①教員によるコンテンツモジュールを使った講義ノート(テキスト)の作成
②学生管理データベース
③進度別の教材提示
④掲示板・メール
⑤チャット
⑥自動採点可能な小問題の出題
⑦課題レポートの出題と回収
⑧成績の管理と通知
⑨コースカレンダーとスケジュール表など

6、新たな試み
徳島大学開放実践センターでは、2002年に「ホノルルマラソンを走ろう講座」を実践した。
参加者の7ヶ月に渡る練習風景をウエブサイトで情報化し、マラソンでは携帯型パソコンを駆使して、移動しながらネット中継を行い、「場と時間の共有」を実践・体験することを中心に課題を設定して、モバイル紺ビュー手リングのスキルを学んだ。

講座終了後、参加者からは目に見える目的を持った学習活動の有効性や、社会との強いつながりと使命の実感、受講生間の連帯感の醸成など大きな効果があった。

7、生涯学習へのIT利用ーその展望と課題ー
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しかし、学習上不可欠の手段となるコンピューター所有に関しては、社会階層的不平等が指摘されている。また、学習コストも対面型に比べても伝統的授業携帯と比べて必ずしも無条件に有利と言うわけではない。

また、eラーニングに対しても学習効果は対面授業に劣る、学習者を個人的に特定できず達成効果が困難であるとの指摘もされている。また、成人学習者でもパソコンでのやりとりは伝達しにくいと言う指摘もある。成人学習者の多くは、学習効果を高めると言うよりも対人コミュニケーションの機会を増やすことに関心があると言う傾向も見逃せない。

そうした問題点は指摘されているものの、やはりITを利用したeラーニングが生涯学習の分野で非常に大きな効果を持った教育指導手段であることは否定できない。伝統的な学校教育制度すべてが学習者にとって最上の選択だとは限らない。生涯学習はこうした選択肢があってもいいし、またあるべきである。

第12章 海外の生涯学習(2)

1、アメリカにおける生涯学習の前史

アメリカにおける成人教育における要請は、言語・文化・習慣・宗教などの異なる移民が流入してくる移民国家であり、広大な地域に人々が分散して移住すると言う地理的条件から必然的に発生するものであった。

■1800年代のアメリカ
国家としての体制を整える時期。移民は清教徒(ピューリタン)が大半を占めていたが、アイルランドの「じゃがいも飢饉」をきっかけにカソリック系アイルランド移民が流入し、アメリカ社会の同質性が大きく損なわれた。

■19C後半
産業の急速な発展に伴い、労働力としてのラテン系・東欧系・東洋系の移民(これらを新移民という)も急増した。

■19Cの成人教育に関する大きな三つの動き
①学校教育の代行、またはそれを補償する教育機会
②大学教育の開放・拡張
③成人のための独自の教育機会の提供

■20C
①アメリカ文化プログラム・・・新移民をアメリカ人化することを目的とする
②大学開放事業・・・地域サービス念頭に置いた経営
③余暇活動・文化活動・シャトウカ活動(通信教育)・日曜学校
当初は中産階級の知識人が対象であったが、その後外出できない人や遠隔地の人などには講師の派遣も行う

2、アメリカにおける生涯学習の現状
現在のアメリカにおける生涯学習は、他の諸国にはない多様性を持っている

■成人基礎教育・・・中等教育レベルの卒業資格を持たない人・英語でのコミュニケーションなど基礎的な訓練ない人・非合法の移民・国内で家庭環境や経済的理由により基礎学力を見につけていない人
■成人中等教育・・・日本の高卒資格を持たない人であっても、第9学年(日本の中3)程度の学力は身についている場合はASEが用意される。ASEで提供されるのはGEDテストのための準備教育である。
■コミュニティカレッジ・・・基本的に大学の前半部分を分担する教育機関。トランフファー(四年生への転入学)、中等教育の補修をする若者、趣味の講座の高齢者など、多種多様。
■大学開放事業・・・ほぼすべての大学が、何らかの大学開放事業を実施している

特徴
①教育機会・教育機関の多様性
②内容の多様性
③実利性と資格主義
④地域性(コミュニティとの密着)
⑤ボランティアの活用

3、中国における生涯学習

■教育補償としての成人教育期
①識字教育の拡大
②独学試験制度・通信放送教育
③在職教育・成人学校の整備

■経済発展に資する人材養成の応える成人教育期
①有職者及び新規に修行するものに対する現職教育
②義務教育未履修者に対する初等・中等レベルの成人基礎教育
③有職者であって現職の要求水準に達していないものに対する専門教育
④社会の発展や科学技術の進歩に応じ、高等教育経験者に対して行われる継続教育
⑤文化生活の質を高めるための文化・生活の教育

■教育機会の拡大と多様なニーズに対応する生涯教育期

■学習形態
①一定期間職場を出て、フルタイム学生として学習する学校型教育
②有職者が就業したままパートタイムで学習する
近年の急激な経済発展を主動因とし、脱職業志向・脱実務指向の傾向・さらに学習者のニーズに基づいた学システム拡充の傾向がはっきり見える。

4、韓国における生涯学習(平生教育)
1980年 改正憲法「国家は、平生教育を振興しなければならない」

当初は「生涯における学習機会の保障」という自然発生的な対応ではなく、「学校外教育機会の統制と監督」という統制的な性格を持っていた。しかし、韓国に限らず市場原理の影響力が強まり、自由競争が強調されるあまり商業化が進んでいる状況も無視できない。韓国の場合は、政権の定義する平生教育が学校教育を包括していないことに、その問題の本質がある。韓国の生涯学習は、今なお大きく波動している。

第11章 海外の生涯学習(1)

1、イギリスにおける生涯学習
労働者教育と教養主義の相克(そうこく)

■イギリス社会の成人教育をめぐる3つの潮流
①産業革命によって階層として確立した労働者層が、より高い技術・技能の修得のために体系的な学習機会を強く求めるようになった
②経済成長によって拡大した庶民の知的要求を満たすため、19C末から盛んになった啓蒙的な成人教育
③資本主義の発展によって階級として自立した労働者による自発的かつ組織的な成人教育活動の流れ

■イギリスの教育
1994年の教育法で「初等教育」「中等教育」「継続教育」の三段階に分けられ、成人教育は「継続教育」に位置づけられる。継続教育は「高等教育」「狭義の生涯教育」「成人教育」の三部門からなる。

継続教育カレッジでは、全日制・サンドイッチ制・昼間定時制・夜間制があり、内容は工業・農業・芸術などさまざまな職業教育を行っている(日本の専門学校に近い)

また、1971年開講の公開大学(OU)、地方教育当局の主催する各種の成人教育機会がある。

2、フランスにおける生涯教育
公的継続教育とアソシアシオン

フランスは生涯教育概念の生みの親ラングランの母国である。フランスは職業教育的・リカレント教育的な潮流と、文化・余暇活動としての民衆教育の潮流がある。その二者の共存が、フランスにおける生涯学習の状況的特徴だと言える。

■教育改革のひとつの柱・・・「学校後継続教育の拡充」
民衆教育とは万人を対象とした教育と言う意味に留まるのではない。それは、学校を卒業した後も、知的・美的・職業的・公民的・道徳教育の発達を生涯にわたり追求する可能性を、万人に授けるものである。この理念がラングランの生涯教育理念に繋がっていく。

■具体的な内容
①有給教育休暇制度・・・すべての労働者が職業生活期間中に自己の発意で教育活動に参加できるよう、企業が年間賃金の0.1%を拠出する。
②継続職業教育制度・・・企業が前年度に払われた賃金の1%を生涯職業教育事業に使わなければならない
③国立工芸院の夜間制高等職業教育
④大学やグランセコールによる生涯学習機会の提供・・・非バカロレア取得者のための社会人入学枠やパートタイムコース
⑤グレタの組織化・・・継続教育協力中学校が10校程度集まったものを1グレタとし、地域住民に対して継続教育機会を与えている
⑥国立通信教育センター、各国立大学連合による通信制教育
⑦国立大学の公開講座

■アソシアシオン(職業教育以外の分野の継続教育)
アソシアシオンでの民衆教育活動は、一般に社会文化アニマシオンと呼ばれる活動によって担われてきた。アニマシオンは、1950年代末ごろから表面化し始めた人々の間での社会的連帯や共有すべき文化の喪失といった事態に対し、「優れた文化の普及」という理念を体現するために取り組み始めた活動である。「教えー教えられる関係」を排し、学習者のニーズとコミュニケーションを基礎においた学習活動が展開された。

3、ドイツにおける生涯学習
学校教育の補償としての継続教育

教養主義的文化活動に対して、左派による労働者教育活動が起こり、それに対抗する形で民衆教育普及協会が作られた。このようにドイツは、政治体制のありようと共に大きな変化を経てきた。

ナチの長い停滞期を追え、第二次世界大戦後、ワイマール期の新方向を継承する形で継続教育・成人教育が組織される。生産の拡大や技術革新を背景に、成人教育が職業教育的な部分と教養教育的な部分とに分化する傾向があったが、「構造改革」の勧告により、その二者が統合される。勧告では、継続教育を「職能向上教育」「再教育」「成人教育」の三領域に分けた。前者2つは職業的教育訓練である。3年後「構造計画」はより具体化され「総合教育計画」が策定される。

■総合教育計画
①公的任務としての継続教育制度構築の具体的方策(地域共同委員会の設置、大学区に交流センターの設置、通信教育の基本策定)
②継続教育施設の建設と整備
③継続教育カリキュラムの開発と修了証書の相互認定
④教職員養成の改善と強化
⑤教育有給休暇制度の確立と立法化

4、ヨーロッパ諸国における生涯学習の今後
今日、ヨーロッパ諸国で教養教育の退潮と職業訓練の盛行という傾向が見られる。そうした社会変動の中で、どれだけ伝統的な民衆教育、成人教育の理念を保持することが出来るか。そのことがヨーロッパ諸国に共通した課題である。

第10章 生涯学習市場の展開

1、余暇活動の中の学習活動

睡眠や食事などの一次活動、仕事や家事などの二次活動に費やす時間を除いた三次活動の時間に行う成人の学習活動には「自分への投資」という側面がある。しかし、何か目的を持ってまとまった学習をしようとすると、授業料や教材費など負担しなければならない。

■総務省統計局の「時間のすごし方」(1996と2001)
商業実務・ビジネス関係、外国語、芸術・文化、家政・家事の分野での学習者が増えている。ビジネス関係では男性が多く、家政関係は女性の割合が多いが、若年層では差がない。

2、学習行動と潜在意識

■経験したことのある学習行動
男性「本、TV、ネット、ビデオ」・・・あまりお金がかからない
女性「民間の講座や教室で学ぶ」「個人の先生につく」・・・費用がかかる
「行政が行う講座で学ぶ」は同程度
しかし、予算縮小などか絡み、行政の講座が今後住民のニーズに応えるには限界がある。

3、市場としての生涯学習

実際行った学習方法とやってみたい学習歩方の差があるため、今後も生涯学習市場が成長する余地はある。企業内教育市場やeラーニング市場を考え合わせると、広い意味での生涯学習市場は1~2兆円の潜在規模を持っている。

4、近年の学習市場の動向
教育にも「不易と流行」はある。
不易・・・いつの時代も変わらない普遍的なもの
流行・・・時代と共に大きく変化する部分
どちらかというと、生涯学習は流行の部分が大きい。

■ケイコとまなぶの例
英会話やパソコン関係、簿記などは、常に人気の上位にあるが、近年は「癒し系」(アロマセラピー、リフレクソロジーなど)のジャンルが伸びてきている。また、高齢社会を迎え、需要が高く将来性もある福祉関係の資格取得講座も人気がある。つまり、資格やビジネスチャンスに直接関わるような学習機会の伸びが著しい。

読者は20代~30代の女性がほとんどで、「仕事に生かす・資格を取る」と「趣味をもつ・教養をつける」が半々である。しかし、「転職に役立てたい」と言う人が9割いるのも特徴のひとつである。

キャリアアップには教育訓練給付制度が使えるが、雇用保険加入3年以上から支給対象なので、ニートや30代のフリーターが制度の恩恵を受けることは難しい実情である。

5、生涯教育市場の展望
団塊の世代が多数退職する「2007年問題」もあり、予想される潜在規模はこれまでになく大きい。団塊の世代の一部が退職後、積極的に学習を指向することは十分に考えられる事態である。

主に女性の場合は、従来の難関な公的資格ではなく、ファッションやペットなどの民間資格(プチ資格)への需要が静かなブームになっている。職業や雇用に直接繋がるものではないが、身に着けることで事故充実感を高める効果もある。

生涯学習は、これまで短期間の対面指導や郵便通信が多く用いられてきたが、現在では情報通信技術の発達により、学習方法の高度化、多様化が急速に進んでいる。

■ユーキャン(元日本通信教育連盟)の諸改革
①事業部制の廃止:書道なら「日本書道協会」、手芸なら「日本手芸センター」という独立した事業部を廃止し、すべて日通連の統一事業の一環とした
②ブランドの統一:日通連の名称をユーキャンに変更。これにより「生涯学習のユーキャン」としてのブランドを確立する
③教育改善の推進:教材改善委員会を設置し、クオリティの向上を図る
④教育方法の多様化:eラーニングやスクーリングの実施(しかし主要な指導は従来どおり通信におく)

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Mikami Kako

Author:Mikami Kako

おことわり

保育士・図書館司書に関しては、旧システムによるものなので、現在のもの科目編成や内容にずれがあります。放大についても閉講科目が含まれます

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